トラブルトレード

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だが、名前と経歴を失うのは、売買したものだけではない。 奪われた者、騙された者、家族の借金の肩代わりなどにも使われることもあった。 だから、知らないうちに自分の名前が売買されていた、というケースは後を絶たないのだが、それに対する救済はないに等しい。 ネームトレードというビジネスが始まって、あまり時が経っていないせいか、それに伴う法律も、抜け道が多く、被害者が泣き寝入りするケースの方が圧倒的に多かった。 そして、何よりも問題だったのは、加害者が家族であり、恋人であり、と近親者であること。 それにより、書類の偽装なども行いやすく。 自分が契約書を書いたわけでなくても、同意して書いたとみなされ。 反論の余地もないまま、名前を奪われるという悪循環が起こっていた。 知らぬ間に名前を売られ、自分の持つ身分証明書が偽造扱いされ。 酷いケースでは、「有印公文書偽造」の容疑をかけられ、そのまま懲役に服すこともあるという。 まじめに生きてきたはずなのに、前科がついたり。 倹約して生きてきたはずなのに、名前の信用を失ったり。 そんな事情を抱えて、宵闇街を訪れる人間も少なくはなかった。
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