6人が本棚に入れています
本棚に追加
「だぁかぁらぁ、お金はないって言ってんでしょっ!?」
金切り声一歩手前のヒステリックな声が宵闇街に響いた。
反響して、さらに大きくなったその声は、キーンという耳鳴りのような不快感を、目の前に座る男に与えている。
「うるさいんで、少しトーンを落としてもらえませんか」
それに辟易したような声を上げ、うんざりとした表情を隠さない。
それが、この宵闇街第4支部の担当者である森崎のよくある行動であった。
ダークスーツに、深い茶の髪の毛。
細目で、細身のフレームのメガネをかけている。
美青年ではあるが、冷たい印象を与える容姿をしているが。
実際は、少し面倒なことが嫌いなだけである。
この第4支部は、トラブルを抱えた人間を扱う部署で。
宵闇街で勤める人間が一番嫌う部署である。
トラブルを抱えた相手が客となれば、いい依頼よりも悪い依頼の方が多いのは必然で。
名前を売られた八つ当たりや、グチ、あるいは逆恨みまで受けなければならない。
名前を買ったのは自分ではないし。
契約を進めたのも自分ではないし。
依頼人との面識はないし。
それなのに、理不尽な対応をされるいいことがない部署なのである。
最初のコメントを投稿しよう!