6人が本棚に入れています
本棚に追加
「落ち着けるわけないでしょっ」
興奮冷めやらぬ彼女は、落ち着くどころか、ますます声のトーンを上げて、ケンカ腰の対応をしてくる。
「あんたは、名前を売られたことないから分かんないんだよ!!」
「その文句は聞き飽きていますので、一度にしてくださいね」
森崎はさらりと言葉を吐いて、言葉を次ぐ。
こういう依頼人のペースに乗せられていては、第4支部では働けない。
もし、働けたとしても、過労で倒れるか、精神的に病んでしまうかのどちらかだ。
きちんと対応をして、罵詈雑言を浴びせられ、人間として否定され、うつ病になってしまったり、自殺したりした同僚を何人も見ている。
森崎は、彼らと同じようにはなりたくなかったし、こういった依頼人を相手するのが面倒なので、あまり相手を喋らせない。
喋る前に、要件を言ってしまうのだ。
「ここにはいろいろな事情を抱えた方がいらっしゃいますし、あなたが自分で名前を売ったわけではないので持ち合わせがないというのであれば、もちろんそうなのでしょうが、それは私のせいではありませんので」
それでもできるだけ丁寧に。
どんな対応であれ、相手は客なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!