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相手には、この対応がどう映っているか分からない。
逆に冷たいと思われているかもしれない。
だが、宵闇街での面談以外に接点を持たない相手なので、今がどうにかなればそれでいいと森崎は思う。
「それはそうかもしれないけど、納得なんかいくわけないでしょ。少しはこっちの身にもなってよ」
泣いてるのか、怒っているのか、まるで分からないような表情で訴えかけてくる。
声は相変わらず、金切り声一歩手前のうるささだ。
「私にキレたところで、売られたあなたの名前は帰ってきませんよ。私にできるのは、今できる限りお金をかけない方法で、あなたに新たな名前を提供して、新しい人生のお手伝いをすることだけですから」
冷静に話を進めるが、女が求めているのはそんな回答ではない。
ただ、話を聞いて欲しいだけなのに。
名前を売られた今、このやるせない思いを向ける先はどこにもないのだから。
同調してほしい。
それなのに、目の前に座る担当の森崎は取りつく島もない。
「帰ってこないのは、散々調べて分かってるよ。だけど、こんなのってあんまりじゃないっ。だって、実の親にネームトレードされるなんて、誰も思わないでしょ!?」
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