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「そうですか、割とよくあるケースですよ」
女の気持ちを察する気もない森崎は、淡々と語った。
確かに家族が大切な者もいるだろう。
血の繋がりは、誰よりも強いという考えの者もいるだろう。
しかし、そうでない者もやはりいるのだ。
自分の欲望のためならば、家族を犠牲にしてしまう者も。
自分ではネームトレードをせず、家族の名前をネームトレードしてしまう者も。
「私は何人もあなたのような人を見てきましたよ。ですから、珍しいケースではありません。むしろ、この第4支部にいらっしゃる方は、そういうケースばかりですし。いちいち感情移入していたら、私の身が持ちませんよ」
まあ、あなたには理解できないでしょうが──そう、呟くように言った森崎は少し自嘲気味で、ほんの少しだけ本音を垣間見せたような表情をする。
それでも、これが自分の仕事なのだから、割り切るしかないのだろうという気持ちも併せ持っていた。
「借金を返すために、自分の子供をネームトレードした人がいました。その人は、子供が親に孝行するのは当たり前なのだから、とそう言って、当たり前のように、自分の子供の名前を売り、お金にしたそうです」
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