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よくもそんな悪びれなく言えたものね。
例えその話が本当だったとしても、彼の発言がきっかけで私がこんな目に合っていることは事実じゃない。
「悩む必要なんてある? 俺と付き合ったら君は嫌な思いをしなくなるし、俺も君が手に入って全てが丸くおさまる」
「で、でもそれはそれで女子から反感が……」
「誰にも文句は言わせないし、そのせいで君に被害がいくようならそいつを社会から抹殺すれば済む話でしょ」
この人なにを言ってるの?
抹殺?
簡単に言わないで欲しい。
だけど、彼の自信満々な物言いからそうすることが可能だと伝わってくる。
純粋に怖いと思った。
私を苛めてくる女逹よりも、得体の知れない恐怖で学園全体を支配するこの男が、なによりも怖かった。
「ねえ、俺と付き合お? 一生大切にしてあげるから。あ、でも俺の知らない君がいるのは許せないから、高校卒業したらずっと俺の家にいてもらうけど」
「り……」
「ん?」
「リセット……」
場面がぐにゃりと移り変わる。
高校の入学式。
舞台の上で新入生代表の挨拶を完璧に読み上げる彼が視界に映る。
誰もが憧れの眼差しを彼に向けている中で、私はひたすら彼という異質な物体から逃れることが出来て安堵の息をついた。
これで私は私の道が歩める。
この時はそう思っていたんだ。
休み時間、本を読んでいる私の元にクラスメイトが話し掛けてきた。
なにかと思って視線をそちらに向けると、頬の筋肉が硬直したのを感じた。
「ちょっと話があるんだけど、今いいかな」
あれから図書室にも行っていない。
極力彼に関わらないように生きてきたつもりだった。
有無を言わせない人見くんの眼力に、私は首を縦に振ることしか出来なかった。
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