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「好きなんだ」
空き教室に入るなり開口一番にそう告げる彼の目は真剣味を帯びており、とてもじゃないがあんな狂言を吐くような人物には見えない。
私は彼に対する恐怖心を悟られないように、唇が震えているのを感じながらも理由を問いた。
「君が俺によくない感情を向けてるのは分かってる。俺の姿を目にする度にああも露骨に逃げられたらね」
「ご、ごめん」
「責めてるわけじゃないんだ。寧ろ新鮮だったよ。自分で言うのもなんだけど、俺って結構女子から人気あるみたいでさ、なにもしなくたって向こうから寄ってくる。だから君みたいな態度を取ってきた女の子は初めてだった」
そこから彼の表情が恍惚に歪んでいく。
私との距離をあっという間に詰めてきた彼は、息が吹きかかりそうなほどの位置で私の瞳をじいっと覗きみた。
「気付いたら君のことばかりを考えて、忘れられなくなっていた。こんな感情は初めてなんだ。ねえ、責任とってよ」
「…………っリセット!!」
瞬間、彼の狂気染みた顔が私の前から消えてなくなった。
「俺と付き合って欲しい」
二度あることは三度ある。
どうやら私は同じ人に三度も告白されたらしい。
前回の教訓を生かし、私は廊下で彼を見かけても堂々と胸を張って歩くことにした。
故の結果がこれである。
「誰も見えていないようなその目に俺だけが映るようになったらどれほどの喜びを感じるんだろう。そう思ったらどんどん君のことを好きになっていた」
彼は私の頬に触れて、滑らかな手付きでそっと撫でた。
長くて細い綺麗な指が睫毛をふさりと持ち上げた時、眼球を抉り取られそうな気分に陥って生きた心地がしなかった。
「頭がおかしくなってしまいそうなほど君が大好きだよ。俺のものになってくれるよね」
おでことおでこをくっつけられ、私は全身に鳥肌を立てつつも懸命に策を練った。
どう足掻いてもフラグを回避することが出来ないならば、いっそのことそれを逆手に取るような言動を取ればいい。
つまり彼に嫌われるような行動を取ったらいいのだ。
私はうっすらと口元に笑みを湛えると、彼の整った顔を見上げた。
「いいよ。付き合おうか」
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