3人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、だから、途中までだったから…、さ」
ついしどろもどろになるが、思えば平然と答えてさえいればどうってことない会話だったのだ。単に、女の子と途中までしたけど、あの感じだと最後までできるね、と言ってるに過ぎない。
途中までした相手が誰かってことが重要だ、って感じさせさえしなければ。
「…ジュンタ」
気がつくと、斜め前に座っているチサトがじっとこっちを見ている。ヤバい。
何か感づいた。
雑に胡座をかいたロングスカートの下の脚を立膝にして、ゆっくりとこちらに半身を乗り出す。俺の目から視線を逸らさず、静かな声で尋ねてくる。
「怒らないから言ってごらん。その時の相手って、誰だったのかな?」
怖い怖いコワい。絶対既にもう半分くらい怒ってるじゃん!
俺まだ何も言ってないのに!
「いや本当に…、お前の」
「知ってる子かな?…知ってる子のことだね、多分」
何でここでしらっと嘘がつけないのか、俺。さあ言え、『それはチサトの知らない子です』って!
「…ジュンタくん、本当はちょっと話したい気持ちもあるんじゃない」
チサトが猫撫で声で、嫌なところを突いてくる。
「そう言えば、アキが行っちゃってからこの何カ月か、ゆっくり俺たち話もしてないよね。彼女のこと誰かと話したいなぁとか、そんな気にならない?あの子の話、聞いてあげられるの俺だけだよ?アキのことよく知ってる相手に、しみじみとあったことを全部洗いざらい話したくならない?」
悪魔の囁きだ。聞き入れてはならない。俺は耳を塞いだ。
「俺もアキのこと、大好きだったなぁ。俺はさ、恋愛中枢死にまくってるからそんな気には全然ならなかったけど。まぁ健全な男ならふらっとは来るよね。可愛かったもんな。気持ちはわかるよ、ジュンタくん」
声が親身に聞こえてくる。そう、アキはあの時も本当に可愛かった。あんな風に終わったのに、今思い出しても身体がぎゅんとなる。アキの声。アキの身体。…ああ、やっぱりつらい。
「…アキ…」
思わず声が出る。頭を抱える俺の背中をポンポン、と励ますように軽く叩いた。
「そうそう。誰にも言えないでいたこと、吐き出しちゃいなよ。俺が聞いてあげるからさ」
それから俺の耳許でゆっくりと囁く。
「…で、お前が途中までした子って、結局誰だったのかな?」
「アキです」
「テメェよくも」
一瞬でチサトの声が激変した。迫力の男声。思わず顔を上げた俺の胸倉を掴んで締め上げる。
最初のコメントを投稿しよう!