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腕を広げて全体を軽く見せてくれる。が、ここだけの話、俺はちょっと目のやり場に困った。
全然ヘンな服ではない。むしろシンプルな、あっさりしたデザインだ。キャミソールに重ねた喉元の広く開いたTシャツに、デニムの膝上のタイトスカート。色柄的には甘さのない、少年の服装のような配色といっていい。
でも、それがかえってどうしようもなく色っぽい。何といっても身体の形が全部見て取れる。アキ、思ったより胸あるな。とか絶対考えてしまう。いや着てる方は全然そんなつもりじゃないんだろうけど。男って本当しょうがない生き物だ。
アキは俺の思惑なぞ知る由もなく、肩を竦めた。
「先輩には『何だそれ』って顔をしかめられちゃいました。前に着たとき」
あいつ絶対俺と同じこと考えやがった。あんな無表情なくせして、俺と大して変わらないんじゃないか。
「チサトさんには『あんたにすごく似合う、それ』って言ってもらったんで、そんなにヘンな筈ないと思うんだけどなぁ…」
それはあれだ、あいつはそういう男目線のセンサーがないから。純粋にファッション的な観点でしか見てないんでそうなるんだと思う。
「その服着たとき、褒めるんじゃなかった…」
隣から呻くような苦しげな声が響き、俺は我に返った。
「何だお前、聞いてたの」
「何言ってんだ、あたしに話してたんじゃないか最初から。独り言のつもりだったのかよ」
「ああ…、そうだっけ」
途中から回想の中に没頭して、チサトの存在を完全に忘れていた。
「あんな何でもないTシャツを見ても欲情するなんて…。全く、女の子は何着ればいいってのよ。ダブダブ、ぶかぶかの緩い服しか着ちゃいけないのか。せっかくあんなにスタイルいいのに、隠さなきゃならないなんて」
勿体ない、と変な方向に憤慨するチサト。俺は思わず口を挟んだ。
「いやだから、着ていいんだって全然。ああいうの、着てくれた方が俺は嬉しいけど」
「何言ってんだ、それでヘンな気起こして襲ったんだろうがその後。そんな奴がどの口で言うか」
俺は黙った。そのことに関しては確かに申し開きの余地もない。 その日のアキの服装がその後の展開に全然関係ない、とは言い切れないかも。
アキの色っぽい可愛い服、タツルのその日のスケジュール、あと一週間しかないっていう俺の焦り、そして思い出の場所でしんみりした雰囲気で二人きりという絶妙な状況が全て相まって、あんなことになったとしか言いようがない。
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