3人が本棚に入れています
本棚に追加
「アキちゃん、もう少し近くに寄っていい?」
横を向いてそっと尋ねると、アキは一瞬意味がわからないというようにポカンとした顔をして、曖昧な声を出した。
「ああ、まぁ、別に。…あ、でも」
ふと思い当たったように首を竦める。
「先輩、急に来るかも知れないでしょ。見たらまた怒られますよ」
「それは大丈夫」
俺は自信を持ってきっぱりと断言した。
「あいつは今日はこっちには来られないんだ。別の場所が結構立て込んでるんだよ」
「あ、そうなんだ」
一瞬寂しそうな目をしないで欲しかった。
俺からすると、二人はこれからもずっと一緒なんじゃないか、俺とは全然立場が違うよって言いたいくらいなんだけど。何だよ眷属って。どさくさに紛れてあんな技使いやがって、本当に公私混同だ。しかしその手があったか!と思っても、俺のレベルではまだ眷属なんて持てないんだよなぁ…。
まぁ、眷属だろうが何だろうが、転生してしまえばお互いの記憶も失われるし、離ればなれと言えなくもないけど。
それでもいつかは必ず一緒になれるじゃないか。死ねば記憶だって戻ってくるしさ。
俺みたいに、本当にアキと会えなくなるかも知れない存在とは立場が違う…。
というわけで、俺は遠慮なくアキの隣、肩が触れるほど近くに身を寄せた。アキが我に返って拒絶しないうちに。別れを惜しむのは俺が優先だろ!くらいの気分だった。
「…これから、この絵を見るの、つらくなるな」
エルンストの絵に目をやると、つい弱気な言葉が出てしまった。立てた膝の上に組んだ腕に頭を載せてため息をつくと、アキが優しい声でからかうように言った。
「絵に罪はありませんよ」
「罪は誰にもないよ…」
俺は思わず彼女の肩に手を伸ばした。最後かもしれないから、しっかり肩を抱いておきたい。アキは特に拒絶しなかった。もともと彼女本人が本当に俺に触れられるのを嫌がっているわけではないし。タツルが来ないんならまぁ…、という思いと、俺との別れが近いのであまり無碍にしたくないという気持ちらしい。
俺はそういうアキの優しさにつけ込んだ。肩を抱き寄せるなり、素早く顔を寄せて唇を重ねたのだ。
(…あっ!)
アキが心の中で思わず声をあげ、反射的に身体を引こうとするのを力を込めて引き止めて更に深くキスする。位置が近いせいか、いつになくはっきりとアキの心の声が聞こえた。
(駄目だってば、…こないだ先輩としたばっかりなのに!)
…は?
最初のコメントを投稿しよう!