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アキが最後の気力を振り絞ろうとする。
でも、可哀想だけど、俺だってもう君を離す気はないよ。絶対に最後までいく。
喘ぎ、身体を捩らせ、声を押し殺しながらアキの頭の中がフル回転を始めたのが見えた。
『考えろあたし。絶対に何か方法があるはず』
『てか、何か忘れてる。発想を転換すれば…』
『何かある。何か思いつきそう…、もう少しで』
「アキ、もう考えなくていいから」
思わず声をかける。そのまま考えさせては駄目な気がした。
そのとき。
「ーあっ!」
アキの唐突な叫びに俺は反射的に彼女をきつく抱きしめた。花火が上がるように、彼女の脳裏がぱあっと明るくなる。ヤバい逃げられる!
なんか思いついた…!
次の瞬間、アキの次の台詞が頭の中に響くのと、俺の腕の中の感触が一瞬でかき消されるのとがほとんど同時だった。
『…あたし、霊だった!』
ふと気がつくと、俺の下の小さな柔らかい身体は夢のように跡形もなく消えていた。俺はその場に呆然とひとり取り残された。
「ぎゃっはっはっはっは」
チサトのこんな嬉しそうな爆笑。…初めて聞いた。
「いいぞアキ、よくやった。…いやぁ、その時のお前の間抜け面を想像すると。これだけであと三年はご飯が食べられるね」
「笑いごとじゃない、全然」
俺は心底憮然とした。あとお前飯食わないだろ。
「本当、同じ立場になってみればわかるよ。男としてこんな辛いこと…。もう最後までする直前の直前で相手の身体がパッと消えるなんてさ。下世話な話で申し訳ないけど、俺はマジで身悶えしたよ。あんな目には二度と遭いたくないね」
「バチが当たったに決まってるじゃん。大体、相手のきちんとした了承も得ないでなしくずしにセックスに持ち込もうとする方が絶対に悪いだろ。自業自得だよ。あーいい気味だ」
チサトは笑い過ぎて滲んだ涙を手で拭った。
「しかし、案外思いつかないもんなんだな。俺もお前の話聞いてて、瞬間移動で逃げればいいじゃん!とは全然考えなかったよ。やっぱりいざという時、意外と生きてる人間だった時の発想から抜けられないもんなんだな」
俺は肩を竦めた。
「俺も完全に忘れてた…。瞬間移動で逃げられるんだから、この系のことが霊にとって危機とみなされないの、当たり前だよな。でも、思い出さないでいてくれたらあの後最後までいけたのに、絶対」
俺は肩を落として深い深いため息をついた。
切ない。
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