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あの二人が行ってしまってから既に数ヶ月が経った頃。
いつも通り美術館の掃除を終えた俺は、閉鎖された踊り場スペース、つまり以前はアキが使っていた場所で休もうとそちらへ向かう途中だった。他の霊の子たちに話しかけられたりして相手をするのも、最近は何となく億劫だ。あの場所ならまだシールドも生きてるから問題なくひとりになれる。
何よりあそこはアキのいた場所だ。霊には体温も体臭も全然ないわけだから、当然アキの気配を伺わせるようなものは何も残っていないのだが。
「ああ、ジュンタ」
背後から突慳貪な声がする。珍しく向こうから声をかけてきた。いつもはこっちから呼びかけでもしない限り、完全スルーするくせに。
「なんか用か」
俺も特にこいつと話したいわけでもない。振り向きもせずに雑に返事する。肩を竦める気配がした。
「用ってほどでもないけどさ。最近印象派部屋に出没する女の子いるじゃん。なんか割とお嬢っぽい子。見た目だけ」
なんか最後のとこ、棘があるぞ。
「印象派部屋?ってどこだっけ」
「何だよ、アキがいなくなったらまた全然絵なんて興味なくなったってか。あんなに絵でも見に行こうよ、とかちょっかい出してたくせに」
「俺は判別できる絵が限られてるんだよ」
憮然として答える。アキが印象派は好きじゃなかったから、俺も最後まで興味は持たなかった。それに、アキがいた頃の話を気軽にするな。
「まぁ印象派も何部屋かあるからね。一階のだよ。二十世紀美術の隣…、お前、あの子になんかしたのか」
ちなみに違和感を感じた向きもあるかもしれないが、話してるのはチサトで間違いない。こいつは内面男の外面女装で、本人に言わせると『精神も女装』してる。ので、基本いつでも女言葉なのだが、俺しかその場にいない時は大抵、結構雑な男言葉になる。「お前相手じゃやる気が出ない」んだそうだ。そのやる気の源って何だよ。アキはまだともかく、タツルの時は何がモチベーションなんだ。
「なんかって何だよ。どんな子かも思い出せないのに」
「クズだな、相変わらず。おおかた親切に手取り足とり世話したり、肩やら髪やらベタベタ触ったんじゃないの?なんかその女が、俺のことお前のなんかだと誤解してるみたいでさ。どうしてそうなるのか、考えるだにゾッとしないけど」
「全くだ」
俺は結構真剣に憤慨しそうになった。チサトと?どうやったらそんな風に見えるんだ。ろくに会話もしないのに。
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