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「お前ならそういうの平気かなぁと思ってさ。人は見かけによらないな。残念」
俺はがっくりしてため息をついた。話しながら歩いているうちに、いつの間にかバロック部屋に来ていた。アキが大好きだった巨大なあの絵。ティントレットだ。
この場所であったことを昨日のように思い出し、胸の奥がチクリと痛む。
「お前、もう今日帰るの」
珍しくチサトの方からこっちの予定を聞いてきた。なんか、今日はずいぶん普段より話しかけてくるな。
「いや、もう今日は特に」
少しぼそぼそした声になる。本当は、この後アキのスペースに行って、そのままそこへ泊まろうと思っていた。最近時々そうしていくことがある。でも、何でだか、そのことをこいつに知られたくはない。
「ふーん」
特に用事があるというわけでもないらしいが、絵と絵の間の壁に背をもたせかけて座り込む。これは少し話し足りないっていうことなのか。考えてみれば、アキが行ってしまってからチサトとゆっくり話をする機会もなかった。俺は自分の気持ちだけでいっぱいいっぱいだったけど、思えばこいつだって寂しかったのかもしれないな。アキがここに来てから、二人はずっと一緒だったから。
「まぁ、自分でも手を出したくない女の子をお前にどうこうして欲しいってのも無理があるか。ただ、お前ってもっと雑食かと思ったからさ。あのくらいのレベルなら許容範囲内かなと予想したんだけど」
「レベルとかの問題じゃなくてさ…」
俺は本当にうんざりしてため息をついた。いつも何処に行っても思うんだけど、なんか誤解があるみたいなんだよな。
「俺、はっきり言うけど、全然遊んでないぞ。勝手に人のこと決めつけるなよ」
「あーまぁ、そりゃ結局所詮は霊同士だからなぁ」
なんかまた勝手に違う方に納得してる。
「霊なんて、付き合うったって上がっちゃえばお互いバラバラだし。結婚するでも家庭を持つでもなし、恋愛してもしょうがないっちゃしょうがないよね。でも、だからこそ遊び程度ならありなのかなと思ったんだけどね。俺はその辺神経が死んでるから今ひとつわからないけどさ。遊ぶったって、霊って女の子とできることあるわけ?いくら何でもセックスとかまでは無理でしょ」
「いや、できると思うよ」
思わずぽろっと出てしまい、慌てて口を抑える。俺のその様子に何かを感じたのか、ヤツは眉を上げた。
「思うって何?したことないわけ?」
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