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上目遣いにしばらく黙って宙を見やる。ややあっておもむろに呆然と呟いた。
「…本当だ」
俺は一転、堂々として胸を張った。
「な?嘘言ってないだろ。俺はね、女の子だったら誰でもいいなんて断じて思ったことないぞ。アキのことだって、好きな子だから触ってたんだ!」
「そんな得意げに言われても…」
チサトはげんなりした表情で呻くように言った。
「こっちはせいぜい、軽くて適当な男だから無神経に気軽に触ってると思ってたのに…。それより全然悪いじゃないか。アキの肩に手を回したり髪を撫でたり、あれも全部やらしい下心でいっぱいだったんだ…」
「そんな言い方」
マジで変質者扱いか。好きな女の子の手を握りたいなんて、ごく普通、全く当然のことじゃないの?…まぁ、最後に俺たちの間に起こったことについてのみ言うと、確かに弁解の余地なんかない気もするけど…。
「今からでも時間を巻き戻して、あの頃のアキに今すぐ裸足で逃げろって言ってやりたい…。信頼してる男にひどい目に遭わされて、可哀想なアキ…」
う~ん…、そう言われると。自分でも否定しきらない…。
がっくり蹲って頭を抱えていたチサトだったが、ふと顔を上げて改めて俺の方を見る。
「でも、それっていつの話だ?…ってか」
目線を宙に彷徨わせ、独り言のように呟く。
「一体、いつの間に…?なんであたしはそんなことに気づかなかったんだろう。アキに変わった様子があった時なんて…」
チサトはキッと俺に向き直って睨む。
「いつの話なんだよ、それ?」
「アキたちが行く一週間くらい前…」
「一週間前?」
チサトは呆然と繰り返す。
「アキは何であたしに何にも言わなかったんだろう…」
「心配かけたくなかったんだよ、多分」
ショックを受けてるチサトが少し気の毒で、俺は思わず慰めるように言葉を添えた。途端にヤツは火が点いたように激しく噛みついてきた。
「アキにそんな気ぃ遣わせたのはお前だろうが!」
「…はい」
項垂れる他ない。
チサトはどっかりと胡座を組んで坐り直し、どこかやけ気味に俺に向かって言い放った。
「…もういい。ここまで来たら毒くらわば皿までだ。何があったのか洗いざらい話してもらうからな。包み隠さず微に入り細に渡って全部話せよ。話はそれからだ」
嫌だなぁ。
「だって、また更に激怒するだろ…」
腰が引けまくる俺に対して、チサトは腕組みしてフン、と鼻で笑って見せた。
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