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「正直、もうとっくに激怒してる。どうやったらこれ以上怒れるのか教えて欲しいくらいだよ。大丈夫だからとにかく隠し立て無しで全部話せや。細かい話はそれからだ」
…本当か?
信用できないなぁ…。
それでも俺は怖々と話し始めた。身の危険をひしひしと感じながらも話さずにいられなかったのは、やっぱり俺自身ずっと、この話を誰かに聞いて欲しい気持ちも少しはあったのかな、と思う。
「さっき言った通り、あれはアキが出発する一週間ほど前のことだった…」
「ジュンタさん、外の掃除ってあんな感じで大丈夫でしたか?」
アキの上達ぶりはなかなかで、まだ実際に高級霊に上がる前なのに、ひと通りの簡単な仕事はこなせるようになっていた。タツルのプレッシャーのかけ方がひどい、と憤慨してはいたものの、これだけの成果を見せられるとあれも意味がなくはなかったのかなぁと思う。何だか悔しいが。
俺なんか、上がる前なんてまだ何一つできない状態だったもんなぁ…。
今日は美術館の内部の掃除はほとんどマスターしてしまったので、見学がてら外側も見てみようか、と言ってちょっと外をぐるっと回ってみることにしたのだ。俺の考えとしては見るだけでいいかな、というつもりだったのだが、アキは大体の勘も掴みながらある程度の仕事をこなしてみせた。俺は内心舌を巻いた。さすがタツルの愛弟子。
「あれだけできれば充分だよ。もう上がったら研修も無しですぐに仕事できるんじゃない?」
「やっぱり一応研修とかあるんですか」
「そりゃああるよ。みんながみんな、アキちゃんみたいに仕事仕込まれて来るわけじゃないもの。俺なんか、仕事覚えたの全部上がってからだったよ」
アキは少し不満げに小さく舌打ちをした。
「やっぱり、先輩普通よりスパルタだったか」
外から正面玄関を通り抜けて美術館の中へと戻る。すれ違う何体かの顔見知りの霊と挨拶を交わしながら、俺たちは展示室の方へと向かう。
「今日は仕事はこれで終わりでいいよ。大変お疲れ様」
「え?もういいの?…本当にジュンタさんはわたしに甘いですね」
呆れたように俺を見るアキ。
「だって、実際すごく捗ったし。あとはまた明日以降で充分だよ」
それに、仕事ばっかりじゃなく、もっと二人でゆっくり過ごしたい。あとたったの一週間しか一緒にいられないのに。今考えると、俺はかなり焦っていたと思う。残り時間の少なさばかり気になっていた。
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