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「ねぇ、アキちゃん、ゆっくり絵でも見て行こうよ。もうすぐ見納めでしょ?時間まだだいぶあるし」
「見納めとか言わないで下さい。寂しくなるなぁ…」
肩を落として本当に寂しげな声を出すアキ。それって、でもまぁ絵の方だよね、名残惜しいのは。
俺と会えなくなるのも少しは寂しいと思ってもらえるだろうか。
「二十世紀美術、行きましょうか。ジュンタさん好きでしょ?」
俺の方を振り向いて、明るい元気な声を出す。
「うん」
俺は微笑んで、頷いた。
「好きだよ」
違う意味を載せても構わないよね。どうせアキには届かない。…ああ、でも、アキには本当に俺の気持ちは伝わってないんだろうか。アキの俺に対する気持ちの中身は、温かい優しい感情、平穏な安らぎ、安心しきった信頼に満ちている。一緒にいる時自然と伝わってくる思考からもそれははっきり読み取れる。自分に変な気持ちを抱いている男に、こんな感情を持てるだろうか。やっぱり俺がアキを女の子として本気で好きだなんて思いもしないから、警戒心を抱かないのか。
でも、何とか自分の思いを伝えようと仄めかすたびに、上手いことすっとかわされるのも感じる。あしらわれてる、と言ってもいいかもしれない。そこら辺、意識してか無意識か、俺の気持ちに気づくのは困るっていう防衛心の現れなのかもしれないなぁ…。
「やっぱりこの部屋、好きだなぁ。でも思えば、ジュンタさんにはわたしの好みを押しつけてないかな。大丈夫?」
少し自信なさそうにこっちをチラッと伺うアキ。俺は本気で答える。
「そんなことないよ。俺もここ、好きなんだ」
絵の見分けがつくから、というだけじゃない。アキは絵を見ながら思いつくままに気まぐれな感想を適当に喋るくせがあるのだが、それをずっと聞いているうちに、俺も自由にあれこれ想像しながら気楽に絵を見られるようになった。そうなると絵を見る楽しさが素人ながら何となくわかるような気がしてくるのだ。
まぁ、そう言いつつも、結局二十世紀美術以外の場所の絵でそういう楽しみを味わうことは未だに出来ずにいるのだが。だって、全部がほとんど同じ絵に見えるのに、自由な感想もなんもあったもんじゃない。
「あ、ジュンタさんの好きな絵」
エルンストの暗い静かな森の絵に駆け寄るアキ。俺もその後ろからゆっくりとした歩みでその絵に近づいた。
アキは絵の前にストンと腰かけ、俺を見上げた。俺もその隣に並んで座る。
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