悪魔の手を持つ天使に願い事を

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悪魔の手を持つ天使に願い事を

「悪魔の手をお貸ししてもいいわ」  天使が言った。  そして右腕を肩から外すと、それをゴトリと私の前のテーブルにおいた。 「こ、これは何ですか?」  私は驚いて声をあげた。  昼間のファミレスの中である。近くで若奥様のグループが実りのない会話に勤しんでいるのに、私の前に現れた天使がいきなり片腕を外したのだから驚くのも無理はない。  正直、心臓が止まるほど吃驚した。 「これは何でも願いが叶う手なのです」  驚いている私をよそに、天使が話を続けた。  頭の上に丸い輪っかをつけ、背中に翼を生やしている姿は、まごうことなく天使である。  だが、その瞳はガラス玉のようで、喜怒哀楽が抜けた輝きであった。 「何でも、ですか?」 「時間を巻き戻す力、人の心が読める力、他人を操れる力、どれか一つを手に入れられたら、あなたはどれを選びますか?」  ガラス玉の眼で、天使がそう訊いた。 (いま何でも願いが叶うと言ったじゃないか!?)私は心のなかで不平をたれた。 「話に良くある、三つの願いではないのですか?」  私は『アラビアンナイト』や『猿の手』を想像して尋ねた。
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