6人が本棚に入れています
本棚に追加
「他人を……操る力……」
聖子は自分の口から出た言葉が信じられないといった表情で、俺を見つめる。
「黙っていて、本当にごめん」
俺はただ、黙って頭を下げるだけだった。
ああ、せっかくいい「力」が手に入ったと思ったのに。
あいつにもらったこの「力」で、世の中楽に生きてやろうと思ったのに。
この「力」が聖子にばれることは、絶対にないと思っていたのに。
思えば、俺は浮かれていたのだ。
この力で圧倒的な額の金を稼ぎ、大奥など比べものにならない程の数の女を落とした。
金、女と来たら次は権力か暴力どちらにしようかな、等と思っていた頃。
ふと、この成功体験を誰かに話したい気持ちが むくむくと膨れ上がっていることに気が付いた。
人は得てして自分の努力で勝ち取った成功よりも、偶然で成功した時の方が嬉しくなるものだ。
テスト前日になんとなく張ったヤマが的中した時。
ダメもとで買った宝くじで大金を当てた時。
ソシャゲで何気なく回したガチャから、最高ランクのレアカードが出た時。
その心理に振り回されるまま、俺は唯一無二の親友に、このことを自慢してしまった。
無論、口止めはした。口が堅く、信頼できるやつだったから、問題はないと思った
だが本当に問題だったのは、このやり取りをLINEメッセージ上に行ってしまったことである。
日ごろから家に他の女を上げていたことが聖子に露見したか、もしくはそこまでいかずとも、疑念を持たすには十分だったのであろう。
聖子は俺を疑い、シャワーを浴びている間に携帯を、そして友人とのやり取りを盗み見て、この力の存在に気付いたのだ。
「じゃあ私も、操られていたって言うの……? 私が貴方を好きな気持ちも、操られた結果だったの……?」
「ごめん……。どうしても、君と一緒にいたかったから……」
零れ落ちる涙を服の袖で拭いながら、聖子は嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。
「……貴方は、自分のことだけしか考えてないっ! 私のことなんてちっとも見てなかったし、関心もなかったのよ!」
「違う!」
「何が違うの!? 貴方が一緒にいたかったのも『私』じゃない。貴方の言いなりになる、操り人形としての私と一緒にいたかったってだけの話なんでしょ!」
「違う、俺は……」
俺の言葉が終わらないうちに、聖子は、落ちる涙の行方をなぞるようにその場でしゃがみこむ。
最初のコメントを投稿しよう!