第1章

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「他人を……操る力……」  聖子は自分の口から出た言葉が信じられないといった表情で、俺を見つめる。 「黙っていて、本当にごめん」  俺はただ、黙って頭を下げるだけだった。  ああ、せっかくいい「力」が手に入ったと思ったのに。  あいつにもらったこの「力」で、世の中楽に生きてやろうと思ったのに。  この「力」が聖子にばれることは、絶対にないと思っていたのに。  思えば、俺は浮かれていたのだ。  この力で圧倒的な額の金を稼ぎ、大奥など比べものにならない程の数の女を落とした。  金、女と来たら次は権力か暴力どちらにしようかな、等と思っていた頃。  ふと、この成功体験を誰かに話したい気持ちが むくむくと膨れ上がっていることに気が付いた。  人は得てして自分の努力で勝ち取った成功よりも、偶然で成功した時の方が嬉しくなるものだ。  テスト前日になんとなく張ったヤマが的中した時。   ダメもとで買った宝くじで大金を当てた時。  ソシャゲで何気なく回したガチャから、最高ランクのレアカードが出た時。  その心理に振り回されるまま、俺は唯一無二の親友に、このことを自慢してしまった。  無論、口止めはした。口が堅く、信頼できるやつだったから、問題はないと思った  だが本当に問題だったのは、このやり取りをLINEメッセージ上に行ってしまったことである。  日ごろから家に他の女を上げていたことが聖子に露見したか、もしくはそこまでいかずとも、疑念を持たすには十分だったのであろう。  聖子は俺を疑い、シャワーを浴びている間に携帯を、そして友人とのやり取りを盗み見て、この力の存在に気付いたのだ。 「じゃあ私も、操られていたって言うの……? 私が貴方を好きな気持ちも、操られた結果だったの……?」 「ごめん……。どうしても、君と一緒にいたかったから……」  零れ落ちる涙を服の袖で拭いながら、聖子は嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。 「……貴方は、自分のことだけしか考えてないっ! 私のことなんてちっとも見てなかったし、関心もなかったのよ!」 「違う!」 「何が違うの!? 貴方が一緒にいたかったのも『私』じゃない。貴方の言いなりになる、操り人形としての私と一緒にいたかったってだけの話なんでしょ!」 「違う、俺は……」   俺の言葉が終わらないうちに、聖子は、落ちる涙の行方をなぞるようにその場でしゃがみこむ。
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