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――何が違うか? 聖子の言葉を反芻する。
俺は聖子を意のままに操ることが出来ていれば、それで満足だったのか?
俺が欲しかったのは、その他大勢の女に求めていたのと同様に、聖子の肉体だけだったのか?
それは違う、絶対に違う!
俺は聖子自身の意思に由来するあどけない笑顔や、子供っぽさが残るふくれっ面、バカみたいに驚いた表情、全ての表情、全ての想いが好きだった!!
操り人形は笑わない、怒らない、驚かない。
だからこそ、聖子に対して「力」を行使することは決してなかった。一度行使したが最後、その相手は永遠に俺の統制下に入るからだ。
なら、俺はどうするべきか。――いや。
答えなんて、初めから一つしかないじゃないか。
「聖子と一緒にいられなくなるくらいなら……、俺はこの力を、捨てる」
「えっ」
「俺はあくまで聖子自身と一緒にいたいんだ。だけど、俺がこんな力を持ってると、聖子は自分を疑い続けなきゃいけなくなるから。だから、捨てる」
そう宣言すると、俺の右手がまばゆい光に包まれた。俺が力を授かった時と、同じ光だった。
光は徐々に輝きを失い、数秒の内に消えた。
「もう、俺に人を操る『力』」なんて残ってない。今ので信用してもらえるかわからないけど、それでも俺は、聖子と一緒にいたいから」
「そんなの嘘だ! ……そんなの」
「嘘じゃない」
聖子の葛藤が、言葉の内容と歯切れの悪さから見て取れた。
俺に出来ることはただ、自律神経に操られるまま泣き崩れる聖子を、優しく抱きしめるだけであった。
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