第1章

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「次の休み、どこか行きたい所ある?」 「じゃあね、私遊園地に行きたい!」  穏やかな日差しが差し込む、ある休日の昼下がり。  俺の部屋で、俺と聖子は二人、肩を並べてソファーに掛けていた。  一時はどうなるかと思ったが、あの後聖子とはなんとか寄りを戻し、上手くやれている。  あの「力」こそ失ってしまったが、聖子といられることに比べたら、そんなことは些事に過ぎない。 ……そう、ささいなことなのだ。  確かに、あの力には凄まじい強制力があり、ある種の神通力とでも言えるような代物であった。  対象となった人間が物理的に実現可能なことであれば、彼の心や尊厳を踏みにじり一方的に書き換えられる事が出来た。  しかし、それだけだ。  何もあの「力」だけが人を操る方法じゃない。  人を操る方法はいくらでもあるが、それらの共通項は心を動かす事。  なぜなら、人を動かすのは心だからだ。  つまり、心さえ動かせるのなら、その手段はあの「力」でなくともなんら問題ない。金で射幸心を煽っても、暴力で恐怖心を沸かせても、方法は何だっていいのだ。  そして俺は、大学の時心理学やその周辺の学問を学んでいたおかげで、あまたある人を操る方法の中で、最も心に直接働きかける技法、心理誘導に通じている。  あの「力」に頼らずとも、相手の思考を掌握、誘導するための地道な努力さえあれば、金も女も、暴力も権力さえもどうとでもなる。
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