第1章

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 人は日々、多くの選択を求められている。    今日の夜食の献立から生命保険の選択まで、大小入り乱れた数多くの選択を、1から10まで全て真面目に考えていたのでは、時間も気力も到底足りなくなるだろう。  このジレンマを解決するために、人はより最低限の情報で、より簡単に意思決定が出来るようにと進化していった。  人は人から好意を受ければ、それを返したくなると「考える」。なぜなら、好意を受けて返さない人は、社会からつまはじきになることを経験上理解しているためだ。  人は希少価値があるものは素晴らしいものだと「考える」。なぜなら、世の中にある有形無形問わず殆どのモノは、買いたい人と売りたい人のバランスで価格が決められており、希少価値があるもの(買いたい人の割合が圧倒的に多いもの)は殆どの場合高価であることを経験上理解しているためだ。  「皆は」「国際社会は」のような大きな主語が主張することは正しいことだと「考える」。なぜなら、多くの人が言っていることはしばしば正しく、また、間違っていたとしても自分だけが責任を負うことはないことを経験上理解しているためだ。  これらの行動は、常日頃から誰しもが、無意識に行っているものだ。  しかし、簡単に意思決定を行えるということは、簡単に騙せることと表裏一体となる。  淫猥な下心故に、進んで他人に好意を与える者がいたとしたら?  ガラクタな宝石を、サラリーマンの生涯賃金を上回る値段で売ろうとする輩がいたとしたら?  自分一人の考えを、不特定多数の総意であると吹聴する人間がいたとしたら?    多くの人は、その裏に潜む悪意を見抜けず、自ら進んで成すがままにされてしまうだろう。  よって、あたかも自分の意思で決定したかのように錯覚させることで他人を意のままに操ることなど、心の原理を知ってさえいれば造作もないことなのだ。 
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