第1章

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 聖子には極力「力」を使いたくなかった。  それは、「力」は絶対的な強制力を持つ代わりに、相手を完全な操り人形にしてしまうから。  ちょっと詩的に言えば、相手を自分にしてしまうから。  誰だって、……ナルシストは別かも知れないが、大体の人は、自分と付き合うなんて嫌であろう。  だから、俺が唯一心の底から愛した女である聖子にだけは、手間と時間を掛けてでも、地道な方法で思考誘導を行ってきたのだ。  その甲斐あって、聖子本来の人格は残しつつ、俺無しでは生きられないと思い込ませる調教が完成した。  これは、「力」では出来なかったことであるし、「力」を引き換えにするだけの価値があったことだ。 「聖子」 「なあに?」  聖子は小首をかしげながら、何も知らない瞳で俺を見つめる。  当人は気付いていないだろうが、聖子はもはや俺に無意識下で依存しきっている。  それは、アルコール中毒者がまるで自分の意思で酒を飲んでいるのだと思い込んでいるのに似ている。  調教が未完成だったあの時はともかく、今はもう、二人の絆は壊れない。 「俺達、ずっと一緒だよ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加