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仏鈴を一つ鳴らして、手を合わせた。
遺影の中では、亭主が相変わらず能天気そうな顔で笑っていた。
これから出かけるから、線香は立てないでおいた。
「龍太郎。真奈。時間よ」
特に返事はなかったけれども、息子はいつの間にか私の背後に居て、出かける間際には要領良く仏壇に手を合わせていた。
玄関を出る頃には、セーラー服を着た娘もいつの間にかくっついてきていた。
運転席のドアに手をかけた私に、
「母さん。俺が運転するよ」
「いいの?大丈夫?」
「いつもバイトで運転してるんだから平気だよ」
そう言って笑う息子の顔が、亡き人の面影と重なった。
本当に、そっくりに育ってくれちゃって。
そんな言葉は口に出さず、ただ、「龍太郎の晴れの場なのに、申し訳ないね」というと、息子は笑って私の手から鍵を取り上げた。
助手席に座った。
当然娘は後部座席。
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