最期の選択

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最期の選択

 気づくとトンネルの中にいた。  といっても、長さはせいぜい三メートル程度のものだ。  真ん中にいても両方の向こう側が見える。外との境い目に立っている人物も。  片方に立っているのはじいちゃんだ。優しい笑顔で俺を手招きしている。  もう一方にいるのは幼馴染の親友で、こっちも笑顔で手を振っている。  呼びかけられてはないけれど、どちらもが俺を呼んでいることは判った。  もう一度、じっくりと一人ずつを見つめる。  …ああ、俺、やっぱり死んだのか。信号無視の車が突っ込んで来たところまでは覚えるけど、気がついたら、病院とかじゃなくトンネルの中にいるし、 しかも、両側にいるのがもう死んでる人間じゃ、そう思うしかないだろう。  じいちゃんは五年前に病気で死んだ。  幼馴染は去年、自殺した。  その二人が別々の方向から俺を呼んでいる。つまりあの世に誘っている。  他に出口のないトンネルの中だ。どちらかに行くしかないが、果たしてどちらに行くべきか。  じいちゃんは、一緒に暮らしてた訳じゃないからそんなに覚えはないけれど、孫の俺には優しい人だったと思う。でも、入院してた時にこっそり聞いた話じゃ、仕事で結構あくどいことをしていたらしく、大勢の人に恨まれていて、病気になったのも、苦しめた人達の怨念のせいなんじゃないか、とか言われてる人だった。  幼馴染は優しい奴だったけど、ともかく気が弱くて、別々になった高校に馴染めず、色々悩みを話してきた。でも、俺の方も新しい環境に馴染むのに必死で、あまりそっちに時間をかけられずにいたら、どんどんこもりがちになり、ある日、自宅で首を吊った。  そんな二人が、別々の位置から俺を呼んでいる。そう、『別々の位置』。つまり、あの世における二人の居場所は違うということだ。
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