残されたもの

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「理佐、」 綾菜が立ち上がってテーブルのこちら側に来て、私の隣に腰を下ろした。 「もう、ね……」 そこから先は言葉にならない。 「あー、ダメだ私、」 「理佐」 綾菜が私の肩を抱き寄せたので、私の頭が彼女の肩口にすっぽりと納まる。 ぽろぽろぽろと涙の粒がこぼれて跳ねながら、彼女のスカーフを伝い落ちていった。 「ごめ、」 「いいから」 席が奥の方でよかった。 「会いたいよね。わかるよ」 「うぐっ、うっ」 私の心の声を口にする綾菜に、唇を噛んでこらえようと思った嗚咽が漏れてしまう。 「このアドレス、調べてみよう。手伝うよ」 私の背中をさすりながら言う彼女の声に、しゃくりあげながらもうなづいた。
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