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家族とか家庭なんか必要ない。
肉親である親でさえ愛情を捨てられるのなら、他人の愛情なんかあてになるはずがない。
だから恋とか結婚とかするつもりはなかった。
ましてやあの時は会社の事とか仕事の事とか、考えることが多すぎてそれどころではなかった。
ずっとそう思ってきたのに……。
自分が弾く曲に涙した彼女を見たら放っておけなくなった。
ホテルで危険な目にあっている彼女の震え声を聞いたら助けに飛び出していた。
そしてその晩、隣で眠る彼女の頬に涙が伝わるのを見たらこの手で彼女の手を包み込んでしまった。
手を。
その時、たぶん潜在意識の中にあったんだと思う。
本当は、俺は。
本当は誰かの手を握りたかったんだ。
今度こそは振り離したりせずしっかりと握ってくれる手を、ずっと探していたんだ。
そしてその手を強く握り返したかったんだ。
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