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「え?」
「ほら、俺、いったん日本に戻って本社の仕事の引継ぎをやらなきゃならないから」
引継ぎには1か月程かけようということだったが、実際にやってみないとどのくらいかかるかはまだわからない。
兄貴は栄詳のことをかなり把握してきてはいるが、佐久間さんは本社に戻るのはかなり久しぶりだ。
それでも元専務だった彼は優秀な人だし、頑張れば何とか……
「私も一緒に日本に行くってこと? 」
思いをめぐらせていた怜は理佐の声に意識を引き戻された。
「何しに、というか、その間私はどこに、」
「俺のマンションに決まってるだろ」
「ええっ?」
「なに驚いてるんだよ。もともと来るつもりじゃなかったのか?」
それはそうだけど、あれは断られることを覚悟の上の押し掛け女房みたいなもので。ダメだと言われたら近くにウィークリーマンションでも借りて通おうかとすら思っていたのだ。
それに、と理佐は以前怜に言われたことを思い出した。
「だけど、家には寝に帰るだけみたいな毎日だから私が来ても仕方ないって言ってたのに」
「うーん、まあ確かにそんなこと言ったかもしれないが」
怜がガシガシと頭を掻いた。
「それでもいいから、一緒に来てほしい」
じっと自分を見つめる怜の視線から理佐は目が離せなくなった。
「というか、」
怜はちょっと言いにくそうにして視線を外した。
「また1か月も離れるとか、そういうのは、その、もう嫌だから」
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