アメリカ編: 何度でも

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これは、もしかしたら……。 それでも怜はカードを読むのを躊躇したが、自分を見つめる理佐の視線の強さに観念して封筒からカードを取り出した。 理佐が怜のそばに来て、カードに目を落とす。 ― レイ、9歳のお誕生日おめでとう。このレゴのお城セット、気に入ってくれると嬉しいです。お店の人のイチ押しだったのよ。 マリア&カイ 二人の名前が記されてあるが、文面と書体からこれはマリアが書いたのだと怜にはわかった。 「あけてみて」 「いまさら?」 「だってこれは怜のためのものだもの。あけてみて」 小さくため息をつくと怜はしゃがんで箱を手に取り、ビリビリと包み紙を破った。埃が立ったせいか、理佐がくしゅん、とくしゃみをした。 中から出てきたのは塔が3つもついた立派なお城が作れるレゴセットだった。人形も王様、お姫様、家臣と色々とついている。 そうだ、あのころ。 アメリカに来て間もないころ、英語もろくに話せない自分を何かと助けてくれた友達がいた。その子の家に遊びに行くといくつもこんな感じの立派なレゴのセットがあって、いいなあと思ったものだった。 でもマリアにレゴが欲しいだなんて言ったことは一度もない。 それどころか、誕生日当日は夕食をさっさと食べるといち早く自分の部屋にこもった。 マリアがケーキやプレゼントを用意しているのは気づいていた。でも祝ってなんかほしくなかった。 父が 「ケーキがあるんだからダイニングルームに来なさい」 と部屋に呼びに来ても、「おなか一杯。いらない」 と言ってその晩は部屋から出なかった。 そんなことを毎年繰り返しているうちに、もう誰も自分の誕生日を祝うことはしなくなった。
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