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そしてある晩、夜中に父に叩き起こされ、旅に出るからすぐに着替えなどをまとめるように言われた。
寝起きだったし、まだ幼かった自分は何が必要なのかもわからず、大切にしていたスケッチブックやぬいぐるみなどを家に置いてきてしまった。取りに帰りたいと泣いて訴えたけれど、もちろん聞きいれてもらえなかった。
自分が空港に向かうタクシーに乗っているんだとわかったのはだいぶ時間がたってからだった。
ロスの空港についたらそこは書いてある文字も話される言葉もまったくわからない異世界で、不安でトイレに行きたいのも我慢してはぐれないようにずっと父親の手を握りしめていた。
アメリカで最初に落ち着いたのはマリアの祖父母の家だった。自分と兄を迎えてくれた彼らは陽気な人たちだった。けれど子供の自分にはすごく大柄なふたりが 『レイ! よろしく~!』 って飛びついてきていきなりハグだのキスだのしてきたのは恐怖でしかなかった……。
「…………ふ」
もうずっと昔の話だ。
すっかり記憶の底に閉じ込めたと思っていたのに、まだ結構はっきりと思い出せるものなんだな。
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