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『OK』 と言って家の方へ歩き去る怜のあとに水のしずくがポタポタと落ちて跡をつけていく。
怜ったら派手にやったなあ。
あ、でも。
シャワーするったって着替えがないじゃないの。
マリアに聞こうと理佐が振り返ると、マリアは口元を手で覆っていた。
え……?
『あの、』
どうしました? と聞こうとした理佐に、マリアは笑顔を作って言った。
『こんな顔してごめんなさいね。……でも、』
ぽろ、と一粒の涙が彼女の頬を伝い落ちていく。
『レイがね、レイが、初めて呼んでくれたのよ』
またぽろ、と涙が反対側の頬に伝い落ちていった。
『私を、母さんって……。8歳の時に一緒に暮らすようになってから、今日、初めて』
涙にぬれた頬もそのままに彼女はまた小さく微笑んだ。
『今までずっと、本当にずっと、私のことを “マリア” としか呼んでくれなかったのに』
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