アメリカ編: 何度でも

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「なにこれ」 「日本にいた時、うちにいた家政婦のキヨさん、覚えてないか?」 覚えている。不在がちだった実母に代わって、お弁当やおやつなどをいつも用意してくれた人だ。自分の描いた絵もよく褒めてくれた。 「私たちがいなくなったあと、キヨさんは社長に家の整理をするように言われたらしいんだ。その時に見つけたらしい。大事なものだからと思って取っておいたんだが、私たちの行先がわからないからそのまま自分の家に置いてあったそうだ」 袋を手渡された怜は中身を確認すると、驚きの目で父を見つめた。 「これ……どうして父さんの元に?」 「理佐ちゃんがアメリカに来る少し前だったかな、キヨさんの娘さんがこちらに見えられたんだよ。お母さんから話を聞いて、いろいろ調べて私の居場所を突き止めて持ってきてくれたんだ。西海岸にちょうど旅行に行こうと思っていたので、って」 「…………」 「キヨさんから、怜坊ちゃんがとても大事にしていたものだからどうしても渡してくれと頼まれたんだそうだ。と言ってもお前もここにはもう来ないし、理佐ちゃんから渡してもらうべきかどうか迷っていたんだよ。お前、これ大切にしていたから」 「……今更言われても」 「本当に今更だよな、お前にとっては。でも私にとってはずっと心に刺さった(とげ)だったんだよ。あの時のお前を思い出してはチクリとして、なんというか、居たたまれない気持ちになったんだ。全くの自己満足でしかないが、これでようやくお前に渡すことができてホッとした」
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