アメリカ編: 何度でも

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「いいなあ、私もそういう能力があったらテストの前とか、教科書の出そうなとこじーっと見てそのまま覚えられて楽なのに」 理佐の言葉に怜は噴き出した。 「そういうのに役立ったことはないなあ」 「そうなの?」 「ああ。なんていうか、自分の心を動かすものや出来事ほど、覚えていられるんだよ」 「あーそうか、だからアート作品でこれはっていうものを記憶に留めることができたんだね」 その力が彼の敏腕アートディーラーとしての仕事に大いに役立ったのだとニコラスから聞いたことを理佐は思い出した。 「……まあ、そういう面もあったけど」 確かにこの能力は仕事には役に立った。でも苦しめられることも多々あった。 母親との最後の夜の記憶だけではない。 パリのアパルトマンで過ごした理佐との日々。 日本で自分の部屋で理佐を抱いた最後の夜。 脳内に鮮やかに蘇る思い出と彼女だけがいない現実との差があまりに苦しくて、部屋にいられないことすら何度もあった。 「いいなあ、そういう能力、写真にも役立ちそうなんだけどなあ」 まだ羨ましそうにしている理佐に怜は微笑を返すだけだった。
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