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「あぁ、話しているうちに陽が沈んじゃった」
再びまた海の方を向いた理佐の背中に、怜は視線を投げた。
かつてここに海を見に来ていた自分の姿が彼女の後姿に重なる。
とはいっても自分の後ろ姿を自分で見ることができたわけではないのだが。
あの頃はただただ失ったものが悲しくて、その悲しみをどこにぶつけていいのかわからなくて、この海原の向こうに日本があるんだと聞いてよくここにやってきたのだった。
けれど不思議なことに今、理佐と重なってみえる幼き頃の自分のイメージからは悲しさを感じられない。
(え……)
むしろ不意にこちらを振り返ったその姿は、微笑んでいるようにすら見えた。
(なんだ今のは)
ふと目を凝らしてもう一度見つめてみたが、もうそんな姿はどこにも見つけられなかった。
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