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「怜、ほんとだよ。怜もぺーちゃんもずっとずっと、よく頑張ってきたよ……」
理佐は彼の胸に押し付けられた姿勢のまま、動かせる左手だけを伸ばして彼の右肩を優しくさするようにしてそう言った。
「…………」
「……怜、ごめん、この姿勢ちょっと苦しい」
「悪い」
理佐を開放すると、怜は空を仰ぎ見るようにして何度か瞬きした。
「あー、もう、理佐のせいで潮風が思いっきり目にしみた」
そう言うと怜は目のふちを指先でこすった。
「……そうだね、すごい風だったね」
実際のところ、海は先ほどから凪いでいて風なんかほとんど吹いていないのだが。
「まったくだよ」
応じる怜の頬につーっと一滴だけ水滴が伝い落ちて行った。
慌てて顔を背けようとした怜の膝のうえに、理佐がぬいぐるみをそっと置いた。
「……アヒルごときで、カッコわりー」
「そんなことな……くしゅん!」
「……気温下がったな。寒いか?」
小さなくしゃみをした理佐の肩に、怜が自分の上着を脱いでかけながら言った。
「もう陽も落ちたし、そろそろ飯食いに行くか」
「これ、なくても大丈夫だよ。怜が寒いでしょう」
理佐が上着を返そうとすると、「運転してる時は邪魔だから。さ、なんか旨いもの食べに行こうぜ、何がいい?」 と聞きながら怜が立ち上がった。
「そうだねー、デザートのおいしいとこ?」
「なんだよ、メインディッシュよりそっち?」
二人の笑い声が暗くなり始めた砂浜に響いた。
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