3601人が本棚に入れています
本棚に追加
「結局いくつ頼んだの」
「10個」
「すげー」
怜は信じられないという顔つきをした。
「だって小さいんだもん、すぐなくなるよ。ほんとここのケーキは見た目も味も素敵だね。いいお店教えてくれてありがとう!」
「この辺りでは有名なところだから。じゃ、そろそろ行こうか」
「あ、会計済ませてくれたの?」
「ん」
「いくら? さすがにケーキ代は出すよ」
「まさか。いらないよ」
怜は立ち上がると 「持とうか?」 と理佐が持つケーキの詰め合わせの箱に手を差し出した。
「大丈夫。自分で持つ」
大事そうにケーキを抱えながらエレベーターホールに向かう理佐の後に続きながら、(なんか俺よりもケーキのほうに全ての関心が行ってるな) と怜は苦笑した。
「それ後ろの席に置いたら?」
助手席に座る理佐の膝の上にはしっかりとケーキの箱が乗っている。
「だってもし急ブレーキとか踏んで座席から落ちたら大変でしょう?」
「俺そんな乱暴な運転しないし」
「そうじゃなくて誰か飛び出すかもしれないじゃない」
「いや高速を走るから歩いている人なんかいな……」
隣で嬉しそうにケーキの箱を撫でている理佐を目にして怜は口をつぐんだ。
「はいはい、ではケーキさんのために安全運転で行きますよー」
「お願いしまーす」
はぁ。
怜は内心ため息をついた。
今日は一日父親の家を訪ねてたからずっとまわりに人がいて、ようやく二人きりになれたと思ったのに。
ケーキの箱が邪魔で理佐に触れることもできないじゃないか。
不毛な嫉妬心をケーキに対して抱きながら怜は車のエンジンをスタートさせた。
最初のコメントを投稿しよう!