アメリカ編: 何度でも

58/80
前へ
/1588ページ
次へ
「結局いくつ頼んだの」 「10個」 「すげー」 怜は信じられないという顔つきをした。 「だって小さいんだもん、すぐなくなるよ。ほんとここのケーキは見た目も味も素敵だね。いいお店教えてくれてありがとう!」 「この辺りでは有名なところだから。じゃ、そろそろ行こうか」 「あ、会計済ませてくれたの?」 「ん」 「いくら? さすがにケーキ代は出すよ」 「まさか。いらないよ」 怜は立ち上がると 「持とうか?」 と理佐が持つケーキの詰め合わせの箱に手を差し出した。 「大丈夫。自分で持つ」 大事そうにケーキを抱えながらエレベーターホールに向かう理佐の後に続きながら、(なんか俺よりもケーキのほうに全ての関心が行ってるな) と怜は苦笑した。 「それ後ろの席に置いたら?」 助手席に座る理佐の膝の上にはしっかりとケーキの箱が乗っている。 「だってもし急ブレーキとか踏んで座席から落ちたら大変でしょう?」 「俺そんな乱暴な運転しないし」 「そうじゃなくて誰か飛び出すかもしれないじゃない」 「いや高速を走るから歩いている人なんかいな……」 隣で嬉しそうにケーキの箱を撫でている理佐を目にして怜は口をつぐんだ。 「はいはい、ではケーキさんのために安全運転で行きますよー」 「お願いしまーす」 はぁ。 怜は内心ため息をついた。 今日は一日父親の家を訪ねてたからずっとまわりに人がいて、ようやく二人きりになれたと思ったのに。 ケーキの箱が邪魔で理佐に触れることもできないじゃないか。 不毛な嫉妬心をケーキに対して抱きながら怜は車のエンジンをスタートさせた。
/1588ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3601人が本棚に入れています
本棚に追加