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でも愛しいという気持ちは抑えることはできない。
ようやくパジャマを着せ終えると毛布と布団をかけてやりながら、怜は理佐の頬に再びそっと手で触れた。
何か楽しい夢でも見ているのか、彼女の口元は軽くほころんでいる。
そんな理佐のすぐ隣に自分がいる。同じようにパジャマ姿で。
ただそれだけの事なのに、それだけのことがとても幸せに感じられる。
いや、ベッドを共にすることは今までも何度もあった。なにせまだ恋人関係どころかその日に知り合ったばかりだったのに、理佐を自分の泊まるホテルの部屋に入れて同じベッドで寝た事すらあったのだ。
だけどこんな風に穏やかな気持ちで理佐の隣にいられるのは初めてだ。
これが最後の夜かもしれないと思わずに隣にいられるのは。
愛する人の隣で幸せな気持ちで眠るーーー
そんな日々が自分に訪れるとは思っていなかった。
本当はそんな日が来ることをずっと願っていたのだと、今ならわかるが。
まだ学生だったころ、自分の心は穴だらけのパズルのようだと思ったことがあった。
自分を捨てた母、焦って違う家族を作ろうとした父、サヨナラも言えずに突然引き離された大切な人たちや物たち。
あちこちのピースが欠けたままであることに気づいてはいたが、見て見ないふりをして過ごしてきた。
その穴を思い出すとそこから冷たい風が吹き込んでくるからだ。
忘れたふりをすれば穴の存在を気にせずに生きていけると思っていた。
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