アメリカ編: 何度でも

69/80
前へ
/1588ページ
次へ
『おう、土曜日だってのにこんな時間まで仕事か?』 ニコラスが手にしていたワイングラスをテーブルに置いて声のする方を向いた。 『もうすぐ日本に出発なんで、いろいろやっておくことがあったんです』 言いながら怜はニコラスの側に回ると、彼のとなりの椅子を引いた。 『仕事熱心もいいが、可愛い人をあまり一人にしてはいかんぞ……っておい、座るならこっち側じゃない、そっちだろ』 『あー、つい今までの習慣で』 頭をガシガシと掻きながら怜がいったん引いた椅子をもとに戻して、理佐の隣の椅子に座り直した。 よろしい、という感じでニコラスがうなづいている。 『全くお前というヤツは。商談に来てるんじゃないんだから』 注文を取りに来たウェイターとの会話を終えた怜に、ニコラスが 『よし、二人ともこっち向いて、こっち』 と携帯をかまえた。 『何やってんですか』 『ようやくお前ら二人が一緒にいるのを見れたんだからな! パリ以来だろ? 嬉しいものだ。あれは何年前だっけ?』 『5年前です。ていうか、写真は勘弁してくださいよ』  そうだ、怜は写真に撮られるのが苦手だったな、と理佐は思い出した。
/1588ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3601人が本棚に入れています
本棚に追加