番外編 (日本にて): あの人の急襲

9/110
前へ
/1588ページ
次へ
*** 「悪いわねえ。わざわざ迎えに来てくれなくてもよかったのに。私、20代まで横浜にいたんだから、東京の土地勘はあるのよ」 羽田空港まで出迎えに行った私に母は苦笑いしながらも嬉しそうだ。 「どう? 久々の日本は」 「食べ物がおいしい!」 「そうでしょう、そうでしょう。持ってきたわよ、あなたの好物」 「それって……」 「くりーむパン! 」 「えっ、生クリームの入ったやつ?」 「そ! ……ってあら、なに、車を待たせていたの? 」 話に夢中で怜が用意してくれた出迎えの社用車の脇を通り過ぎるところだった。 「あ、うん」 「本郷様でいらっしゃいますね。お疲れさまでした。どうぞこちらに」 白手袋をはめた運転手の川野さんが後ろに回って母と私のためにドアを開けて一礼する。この人、実は怜の専用運転手なのだが、手が空いている時はこうやって私用にも応じてくれるのだ。 タクシーを使うって言ったんだけどね……。怜が譲らなかった。 「これハイヤー? 」 母が私だけに聞こえる小声で言った。「そこまで気を使わなくてもいいのに」 いや実はこれだけではないんですよ……。
/1588ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3601人が本棚に入れています
本棚に追加