番外編 (日本にて): あの人の急襲

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けれどチェックインを済ませた母は、ロビーで待っていた私の方に血相を変えてすっ飛んできた。 「ちょっとちょっと、なんだかすごくいい部屋なんだけど! 」 いい部屋…… デジャブだ。 そうだ。スペインのアンダルシア地方を怜と旅していたころ、彼が選んだホテルの部屋はいつもとてもいい部屋ばかりだった。 「しかもお金も全て払い済みですって! 」 「あー、まあそれは、」 怜が手配するって言ったんだし。 「あなたたち、まだ若いんだからそんな余裕ないでしょ? こんなことで無駄使いするのはダメよ!」 母が説教を始めそうになった。 「いや、それは大丈夫。あの人結構高給取りだから」 「出版社の社員が? まあ教師よりはいいお給料だろうけど」 ちょっと、父が聞いたら怒るよ?  それに怜は……。どうしよう。どのタイミングで説明したらいいんだろう。 説明するって言ったって、そういえば私は怜の年収すら知らない。 ニコラスさんから聞いた話では、アートディーラーだったころには億というお金を動かしていたこともあるそうだから、5%くらいの (いやもっとかもしれないが) コミッションをもらっていたとしても、1つの商談だけで数百万円……!? 「今更お部屋を変えるのもどうかと思うし、あとで私銀行に寄るから、お部屋代の半分だけでも―――」 「あ、いい、いい、それは心配しないで。ともかく、彼がそうしたいって言ったんだから、そこは気にしなくて大丈夫だから」 「……そうなの? うーん……」 母が少し考え込んだ。 「わかったわ。今回はありがたくお世話になります。でも無駄使いするような人なら結婚相手にはちょっと心配ね。もし一緒になるつもりならあなたがしっかり家計を締めないと」 「うん」 ここは素直にうなづいておくことにした。
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