番外編 (日本にて): あの人の急襲

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「ねえちょっとあの男性(ひと)。カッコよくない!?  まるで俳優さんみたい! 」 母が興奮気味にこちらを向いた。 「あんな人がそこら辺を歩いているのが東京なのよねえ! 」 「どの人?」 「もう通り過ぎたわ。ああいう人はどんな恋をするんでしょうね。きっとモテモテでしょうからねえ」 母がうっとりとした顔でコーヒーカップを手にした。 「どんな風に告白するのかしら。きっとそういう時でもカッコいいのよねえ」 「お母さん、妄想に走りすぎ」 「だって楽しいじゃない。あなたはほんとに無関心ね」 「栄詳にいた頃にけっこうモデルさんとかとも仕事してたから」 綺麗とかカッコいいのは確かにいいことなのかもしれないが、人間それだけが全てではない。 「写真修行をしてるのに美に無関心でいいの? 」 「今は仕事スィッチがOFFなの」 私の返事に母は肩をすくめるだけだった。 「お待たせしました」 サンドイッチのセットが二つテーブルに置かれた。うん、確かにこれはおいしそうだ。 「さあ食べ」 「あらっ!!  ちょっとちょっと!! 」 母が叫んだ。 「どしたの? 」 その声の方にむしろ驚いてテーブルから顔をあげる。 「さっきのすごくカッコいい男性(ひと)! この店の中に入ってきたわ! 」 え? 「しかもこっちの方に来るわよ。誰かと待ち合わせかしら? 」 声を潜めて母が言う。 ……いや、どうして、なんで!?
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