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「怜、どこ行ってたんだ。アメリカから電話来てたぞ」
廊下の向こうから届いた声に顔をあげる。あれ。この方はもしかして?
「ああ、さっき俺の携帯にもかかってきた。佐久間専務はもう帰った?」
「いやまだいると思う。さっき彼の部屋の前で見かけた」
「OK。そうだ、悪いんだけど頼みがある」
「なに?」
「お客様にインタラクティブルームの説明をしてもらえないかな。シモンに頼んだけど、あいつの日本語はかなり怪しいから」
やっぱりこの人、怜のお兄さんの秀先生だ。私と目が合うと、「え、本郷さん!? 」 と目を丸くした。
「と、その母上」
「ええっ!? 」
驚いている秀先生に怜が近寄り、何か耳打ちした。
「はあ!? 」
秀先生がこちらまで聞こえるような大きな声で驚いている。怜ったら何をお兄さんに言ったんだろう。
怜は涼しい顔をしてこちらに戻ってくると、「ちょっと僕は急ぎの打ち合わせが入ったので、すみませんがここで失礼させていただきます」 と私たちに一礼して廊下の奥に早足で行ってしまった。
秀先生はこちらを見ると笑顔になり、「久しぶりですね。昨年の秋にロスのスタジオで会って以来ですよね」 と言って近づいてきた。
そうだ、あれからもう4か月程たっている。
「秀先生もこちらでお仕事されているんですね」
「怜から聞いてます? 教育関係を中心に顧問みたいな形なんですけどね」
怜がロスの事務所に来ることになったいきさつを海先生の所で話してくれた時、秀先生が栄詳の経営に関わり始めたことはそれとなく聞いていた。
こうして実兄が傍にいてくれるということは、きっと怜にとってはとても心強いことだろう。
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