番外編 (日本にて): あの人の急襲

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「本だとかレコードだとか紙焼きの写真だとかそういうアナログなものは、アクセスできる速さやカバーできる広さではデジタル媒体にはかないません。デジタルは動作が早いし検索力も高いからあっという間に広範囲をカバーできる」 「だけど速くてカバー力もあるから人は簡単に膨大な量のデジタル情報を手に入れることができる。携帯で撮った大量の写真のうち、どれくらいあとで何度も見返します? タブレットで読んだ小説は? 」 「もちろんマメな人ならちゃんと整理して特別な保存用電子フォルダを作るでしょう。でもそういう時間を取れる人は限られてますから」 僕も写真は撮りっぱなしで全然整理できてないんですよ、と秀先生が笑った。 「人は本当に大切なものは目に見える形で触れられるように手元に置いておきたい。少なくとも僕や彼はそう思っているんです」 「心を揺すぶられた本、聞くと記憶がよみがえる曲の入ったCD、思い出の場所で撮った大切な人とのプリント写真……そういうものを目に見える形で傍に置いておきたいという気持ちは完全には消え去ることはないのではないかと思うんです。アナログ媒体にはアナログ媒体にしかない存在感があるのではないかと」 言われてみれば……確かに自分の目につく所に好きな本が置いてあるだけで、なにか暖かい気持ちになれるような気がする。
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