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怜だ。
何人かのオジサンたち (皆偉い人たちなんだろうけど) と共に熱心に話をしながらこちらに向かって歩いてくる。
「じゃ、私は今日はこれで」
「私もここで失礼します」
「お疲れ様です」
「いい結果になりそうでよかったですな。ではまた月曜に」
お互いに挨拶を交わしながら、他の人たちはメインのエレベーターの方へ向かい、怜だけがこちらにやってきた。
「スーツ男子……」
ぽわん、と音がしそうなため息が横から聞こえた。
怜は先ほどカフェで会った時のシャツ姿ではなく、ネクタイを締めたスーツ姿に戻っていたのだ。
「男の人って制服やスーツ着ると雰囲気が変わるとはよく聞くけど……」
ヤバい、母の目がさっきのカフェのウェイトレスみたいにキラキラしている!
「もうそろそろホテルに向かったほうがいいんじゃないか? 」
近くまで来た怜が腕時計をチラッと見ると私に言った。
「うん、そうだよね。お母さん、観劇の前に着替えたいって言ってたじゃない。もう行こう」
母を促しながらも私の方までドギマギしてしまった。
なんなのこれ。怜のスーツ姿なんて何度も見ている。今朝彼が家を出る時も見たのに。
母のフィーバーがうつってしまったのだろうか。
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