番外編 (日本にて): あの人の急襲

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「理佐? 」 母に負けずにポーっとして立ち止まっている私に、怜が不思議そうな顔をした。 「あ、行こう行こう」 「この時間なら車での移動のほうが早いかもな」 怜がまた腕時計に視線を落としながら独り言のように言った。 「大丈夫だよ、地下鉄で一駅だもの」 「俺も一緒に出るから」 「私は8階に戻りますね」 水島編集長の言葉に、「あら理佐の元職場を見る時間がなくなっちゃった?」 と母が少し残念そうに言った。 「またいつでもいらしてください。人がいる時の方が活気があってずっと面白いですよ」 にっこりとそう言う編集長に、母も 「そうかもしれませんね。ありがとうございます」 と返した。 メインのエレベーターの前に着き、エレベーターが上がってくるのを少しホッとしながら待つ。よかった、これで怜の栄詳での立場も私の口から母に説明できそうだ……。 チン! エレベーターのドアが開き4人で乗り込もうとしたまさにその時、背後からパタパタと早足で近づく音がした。 「あー、待って待って、これ、月曜朝一の会議にいるんで、持って行ってください! 」 その声に怜だけでなく、皆が振り返った。 「あー、よかった、間に合って。もうお帰りになってしまったかと焦りましたよ、副社長! 」
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