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「じゃ、また。明日のお昼、楽しみにしています」
裏受付の外で次の打ち合わせに向かう怜と別れて、私は彼が用意した車に母と乗った。
唖然としたままの母は怜に挨拶をしただけで、先ほどから一言も言葉を発していない。
とにかく基本的な事だけでも母に説明しなくては。運転手は怜専用の川野さんじゃないから、小声で話せば聞こえても何の話かわからないだろう。
「あの、ごめんね? 説明が遅れて」
「……もう、驚きすぎて何をどう反応したらいいのかもわからないわ」
「やっぱ驚いた? 」
「あたりまえよ。……ほんとに、あなたもそうだけど、兄さんも何も言ってくれないから」
「それはまあ、私が最近までアメリカにいたりして連絡しづらかったんだよ。でも、いい人でしょう? 私のことを大切にしてくれるし」
「……文句のつけようがないくらいカッコいいしスマートだけど、副社長さんだったなんて。しかもあの若さで次期社長さんだなんて」
母がため息をついた。
「副社長になったのはまだ1年半くらい前の話なんだよ」
「そうは言っても。……あなた契約社員だったわよね。いったいどこで接点があったの? 」
「知り合った時は彼が栄詳の人だなんて知らなかったの。というか、かなり長い間知らなかった。彼とは私がスペインを旅行中に偶然知り合ったの」
「スペイン旅行中に!? 」
「そう、もう5年位も前の話なんだけど夏にアンダルシア地方に行って、その時泊った宿があまりいい所でなくて泥酔した男が私の部屋のドアをこじ開けて押し入ろうとしたの」
「ええっ、そんなことがあったの? 」
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