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「うん。で、その日の昼のことなんだけど、アルハンブラ宮殿で写真を撮ってた時に私の撮影テクニックが間違ってるのが気になったのか、怜が話しかけてきたの。あの人、写真もかなり詳しいんだよ」
話しながらあの日の思い出がよみがえってきた。
「ナンパされたの? 」
「違うよー」
思わぬ返答に噴き出す。
「その後あっさりいなくなってしまったし」
実際の所はその日の昼前にも会ってるし、アルハンブラ宮殿の後もまた出会ってしまって結果的に夕食を共にしたのだが、そこまで詳しく語らなくてもいいだろう。
「それでその夜、ホテルの部屋にいたら男がドアを強い力で叩いてこじ開けようとして。部屋の中で恐怖で半ばパニックしてる時、彼が泊ってるホテルの名前を思い出したんで電話したら助けに飛んできてくれたんだ……その日に会ったばかりでただ話しただけのよく知りもしない私のことを」
「……なんか、物語に出てくる王子様みたいな人ね」
「ま、まあね」
王子様というには無口だしちょっとシニカルなところ (最近はそうでもないけど) があるし、何より王子様がベッド以外の場所であんなコトやこんなコトをしたりするんだろうか……そこまで考えて赤面しそうになったのでやめた。
そうこうしているうちに母のホテルがもう見えてきてしまった。
「……まあ詳しくはまたあとで聞くわ」
「うん。これからは観劇に集中して。そのために来たんだもね! 」
「そうなんだけど……」
母はまだなんだか呆然としている。
「ステージ上には素敵な人がたくさんいるよ。堪能して! 」
そう言って母を車から降ろした。
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