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「う……」
ソファに浅く腰掛けながら、俯いて唇を噛んだまま通話を一方的に切ってしまった携帯を握りしめる。
「理佐」
背中に手が添えられた。
「今の電話の相手、お母さん? 」
「……うん……」
「俺たちのこと、反対なのか? 」
「反対とかいうんじゃないけど……」
怜が隣に座った。「俺に話して」 と目で伝えてくる。
「私たちが共に過ごした時間が短いんで、結婚を考えるほどお互いを理解できてるのか、って」
「……一緒にいた時間が短いというのは、確かにその通りだな」
フッと苦笑を漏らした彼のほうを思わず見る。
「でも、それが問題になるの? 一目ぼれって言う言葉だってあるじゃない。逆に30年連れ添った夫婦だって別れることもあるんだから、時間の長さなんてあてにならないでしょう!? 」
「落ち着けよ。短いことが悪いと言っているんじゃない」
「でも……」
確かに時間の短さに関してはその通りだ。5年も彼を知っているのに、恋人として怜のそばにいられた日々は日数にしたらたぶん1か月にも満たない。
でも私はそれでも怜のスペックがいいからじゃなく、ちゃんと人として彼を好きになったんだと、どうしたら母にわかってもらえるんだろう。
それに怜だって私のスペックに惹かれたわけじゃないよね? と考えそうになって、いや待て私はごく普通でそんな高スペックなんてものは自分にはないと思い至った。
だから怜も私を人として、女として好きになってくれたんだよね?
そんな思いを心の中で問いかけながら彼の方を見ると、怜も私を見つめていた。
「お母さんと話して来たら」
「……」
その時携帯がまた振動した。
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