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母だ。
「出たら? 」
躊躇する私を怜が促した。
「……理佐? 」
困ったような声が聞こえた。
「ごめんなさい。あなたを怒らせるつもりはなかったわ。あなたもいい年した大人なんだから、自分のことは自分で判断して決めるべきだとは思う」
「反対しているわけではないの? 」
「あなたの人生だからね」
それはそうだけど。でも母があまり納得していないのが感じとれる。
怜と私の間にあったことを簡単に説明するのは難しい。
自分の勤める会社の跡継ぎと知らずに彼とパリで過ごした濃密な日々。
伯父や私を買収がらみの裁判沙汰に巻き込まれないよう徹底的に守ってくれたこと。
写真家になりたいという私の夢を支えるため、長く連絡を絶っていた父に口をきいてくれてまで整えてくれたアメリカ生活……。
怜とのこれまでの数々を思い出す。うん、怜は私を大切に想ってくれてる。
私たちは決してお互いの表面だけ見て恋に落ちて燃え上がり、そのまま突っ走ってきたわけじゃない。
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