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プッと母が軽く噴き出した。
「そんな思い詰めたような顔しないの。兄さんから色々と事情も聞いたわ。と言っても企業乗っ取りだのなんだの、話が凄すぎてなんだかよくわからなかったけど」
……そ、そうなんだ。
どう説明したらわかってもらえるかと緊張で握りしめたこぶしを緩める。
「……栄詳はもしかしたらアメリカのIT系出版社に乗っ取られて、美味しい所だけ奪われて潰されるところだったんだよ」
「そうらしいわね。まあ兄さんが永嶺さんを恨むどころか絶賛してる所をみると、あなたの彼のやったことは正しかったのでしょうね」
「うん」
とはいえ、実は怜が具体的に何をやったのかはいまだに私にもよくわかっていない。でもこの5年近く、彼はそれこそ寝る時間も惜しんで自分の持つネットワークを使い栄詳を立て直してきたのだということは知っている。
「それよりね、理佐、」
母がグラスを置いてまた私を見つめた。
「あなた、永嶺さんの妻になる覚悟はあるの? 」
うっ。
いきなりの質問に口にしたばかりのカクテルを気管支に入れそうになった。
「ゴホッ、ゲホッ」
「あらあら」
ほら、と紙ナプキンを母が差し出した。
「そ、それはどういう意味? 彼が社長になるかもしれない人だから? 」
「それもあるけど、それだけじゃないわ」
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