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「彼があなたにアメリカに行けと言ったの? 」
「行けというか、私が写真家になりたいという夢をパリで話していたのを覚えていて。それをずっと支えてきてくれたの」
「孝之兄さんが理佐のアメリカでの仕事先も住まいも皆彼が用意したんだ、って言ってたのはそういう意味だったのね」
「うん。それだけでなくてクライアントになりそうな人たちも紹介してくれた。彼は昔ロスに住んでいたから」
怜が以前アートディーラーとして名の知れた活躍をしていたことや、子供のころ実母と辛い別れを経験していることなどには触れなかった。いつかは話すべき時が来るのかもしれないけれど、今の私と彼の在り方には直接関係ないと思ったからだ。
「そうなの。至れり尽くせりね。……ほんとにすごいわね」
母はグラスをまたコトリとテーブルに置いた。
「わかったわ。旅先で恋に落ちてそのあとあまり共に時間を過ごしてないと聞いたから、永嶺さんという人物を見ているよりそのロマンチックなシチュエーションに恋をしているのではと心配だったんだけど、そう言うことではなさそうね」
「恋に恋していると思ったの? 」
「そうねえ。相手があれだけ素敵な人だからね。フィクションの世界にはありがちな設定だからよ」
「それも演劇ファンとしての見識? 」
「元国語教諭としての見識よ」
母が笑った。
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